公開日:2026.03.12
最終更新日:2026.07.16

シンガポール、初の国家適応計画へ。気候変動対策は「排出削減」から、命を守る「適応」に転換

赤道直下の都市国家・シンガポールが、気候変動に対して大きな舵を切った。

シンガポールの持続可能性・環境省(MSE)は2026年3月3日、同年を「気候適応の年(Year of Climate Adaptation)」にすると宣言し、同国として初となる「国家適応計画」の概要を発表した。本格的な計画は2027年に発表予定だ。これまでの世界的な潮流だった温室効果ガスの排出削減(緩和)に加え、すでに避けられない気候変動の影響に対して社会をアップデートさせる「適応」に、国家の総力を挙げる方針だ。

なぜ今、適応なのか。その背景には、シンガポールに突きつけられた予測データがある。

第3次気候変動国家調査によると、今世紀末までに同国の日中の最高気温は最大で5.3度上昇する可能性がある(※1)。同省は「日中の熱中症や夜間の暑さが新たな常態となるでしょう」と表現しており、エアコンが広く設置されている同国でも健康や経済活動を脅かすリスクが示されているのだ。さらに深刻なのが、海面上昇。2100年までに平均海面は最大約1メートル上昇し、高潮や嵐が重なれば水位は最大5メートルに達すると予測されている(※2)。国土の約30%が海抜5メートル未満の低地にあるシンガポールにとって、水没は国の存続に関わる問題なのだ。

世界の一部ではの気候変動対策が停滞しつつある中、シンガポールはデータをもとに着実に前へ進む決断を下したと言えよう。

国家適応計画の中心となるのは、「熱対策」「洪水対策」「沿岸の防御」そして「水と食料の安全保障」だ。まず注目すべきは、暑さ対策の司令塔となる「熱レジリエンス政策局(Heat Resilience Policy Office)」の新設だ。持続可能性・環境省内にすでに設置されたこの組織は、インフラ整備から市民の健康管理まで、省庁の枠を超えて対策を指揮する。さらに、より効果的な冷却技術や、高齢者や屋外労働者など社会的に弱い立場の人々を守るための研究開発に、4,000万シンガポールドル(約49億5,000万円)規模の資金が投じられる。

また、海面上昇に対しては、貯水池を守る堤防のかさ上げや水門の交換が計画されている。ユニークなのは、この堤防が単なる壁ではなく、メンテナンス道路を兼ね備え、海との生態学的なつながりを維持するよう設計される点だ(※3)。自然と共生しながら国土を守る、多機能なインフラ整備が求められるだろう。市街地では激甚化する豪雨に備え、主要な排水路や運河の拡幅工事が2026年中に完了する予定だ。

また政府は持続可能性をサポートするコミュニティプロジェクトへの資金提供「SG Eco Fund」を拡張し、熱対策や節水、地元農産物の支援など、市民や企業が主導する気候適応プロジェクトを対象に含める。助成金についても、従来は費用の最大80%だったところを90%に引き上げるとのこと。

こうした適応に向けた危機意識は、シンガポールに限らず世界で高まりつつある。世界経済フォーラムは2025年9月、気候変動による健康リスクが、2050年までに1.5兆ドル(約238兆円)以上の経済的損失を招くとの分析を発表した。今や気候変動と健康の関わりを無視することは難しくなる中、排出削減の緩和策に加えて、政府を中心とした健康・命を守る適応策の実践が始まりつつあるのだ。

※1 Year of Climate Adaptation|Ministry of Sustainability and the Environment, Government of Singapore
※2
Resilient Future|Singapore Green Plan 2030
※3
From heatwaves to rising seas: Singapore lays out climate adaptation plan|CNA

【参照サイト】

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2026/3/10
IDEAS FOR GOOD
[原文はこちら]

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