なぜ今サステナビリティ情報開示媒体の整理が必要なのか?企業がサステナビリティ情報を開示する主な媒体は、これまでPDFでの「サステナビリティレポート」や「ウェブサイト」でしたが、SSBJ基準の公表などに伴って有価証券報告書でも開示の充実を図る企業が出てきています。制度開示である有価証券報告書と、任意開示であるレポートやウェブサイトでは、同じ情報を異なる視点で開示することもあるため、齟齬が生じないように各媒体の関係性を整理する必要があります。また、サステナビリティレポートやウェブサイトについても、対応するESG評価機関や情報開示基準が異なっていたり、初めて作成した頃から状況が変化しており、最新の基準に対応しきれていない可能性があります。そこで、有価証券報告書でのサステナビリティ情報開示と合わせて、いま一度、「自社は何を目的に、どのような媒体で、どうサステナビリティ情報を開示しているのか」を整理されてはいかがでしょうか。本記事では、具体的な整理のパターンと、整理する際にご検討いただきたい事項をまとめてご紹介しています。媒体整理の3つの主要パターンと企業事例①財務/非財務(横軸)×ストーリー性/網羅性(縦軸)で整理するケース各社の統合報告書よりYUIDEA作成・有価証券報告書が財務情報を網羅的に開示する媒体、IRサイト・サステナビリティサイトが非財務情報を網羅的に開示する媒体となっています。・サステナビリティサイトの内容を年度ごとにPDFにしたものを、サステナビリティレポートなどの名称でダウンロードできるようにしています。・該当する企業には、NEC・富士通などがあります。②実績/中長期視点(横軸)×ストーリー性/網羅性(縦軸)で整理するケース各社の統合報告書よりYUIDEA作成・有価証券報告書が実績と定量情報を中心とした媒体、サステナビリティレポートやサステナビリティサイトが各軸の要素をバランスよく掲載する媒体となっています。・サステナビリティサイトは、サステナビリティレポートを補完する媒体として位置づけられています。・サステナビリティレポートの内容はサステナビリティサイトと一部重複するものの、デザインにも配慮したり、レポート単体として編集されたものになっています。・該当する企業には、花王・日立製作所などがあります。③統合報告書を作成しないケース上記でご紹介した事例は、いずれも統合報告書を含んでいますが、統合報告書を作成していなかったり、作成をやめていたりするケースもあります。例えばリクルートは、「有価証券報告書」を投資家向けのメイン媒体として位置づけ、・マテリアリティ特定プロセス・インパクトの管理体制などのサステナビリティ・非財務に関する情報も掲載しています。また、ミズノは「サステナビリティレポート」をメインの開示媒体として位置付け、その中でTCFDなど投資家向けの情報も掲載しています。非財務情報の開示義務化と統合報告書の今後の位置づけ2024年6月時点の情報にはなりますが、今後の制度開示を検討する経済産業省の懇談会では、下記2つの方向性が示されました。イメージ案1は、現状の任意開示としての統合報告書の重要な役割を維持する方向イメージ案2は、現在統合報告書で開示されることが多い情報についても、必要性を検討したうえで法定開示に含めるという体系です。いずれにしても、制度開示の範囲の拡大が想定されており、これに対応していくことが必要です。サステナビリティ情報開示を最適化する媒体整理の実践ステップこのような状況を踏まえつつ、一度下記のような流れで、現状を整理されることがお勧めです。①各媒体の目的「誰に、どんな情報を伝える媒体なのか」を明確にする②各媒体の目的が達成できているかを評価する(不足している情報がないか、参照していた情報開示基準が古くないか、などを確認する)③媒体間で、矛盾や齟齬が生じていないか確認する(マテリアリティやビジネスモデルが同一になっているか、表現を変えている場合は明確な根拠があるか、などを確認する)情報の不足や矛盾などの課題を明らかにして対策していくことで、より役に立つ媒体になっていきます。さらに、開示内容だけでなく、社内での情報の共有方法など開示プロセスの改善も期待できます。参考資料経済産業省「企業情報開示のあり方に関する懇談会 課題と今後の方向性(中間報告)」関連記事【最新2024年版】統合報告書・サステナビリティレポートでのコア・コンテンツ事例人的資本を例にした媒体ごとの棲み分け事例統合報告書・サステナビリティレポート評価/分析