これまでの資本主義の主流は「株主資本主義」でした。つまり、企業は株主のために利益をあげることを最優先としてきました。しかし、これによってさまざまな弊害が発生し、2019年のダボス会議ではこの反省を踏まえ、新たに「ステークホルダー資本主義」が提唱されました。企業活動は多様なステークホルダーによって支えられており、これらのステークホルダーへの還元を目指すのが「ステークホルダー資本主義」になります。しかし、企業の「ステークホルダー資本主義」の進捗をどのように評価すれば良いのでしょうか。世界経済フォーラム(WEF)は2020年9月、「Measuring Stakeholder Capitalism」(ステークホルダー資本主義の測定-共通の指標と持続可能な価値創造の一貫した報告に向けて)というホワイトペーパーを公表しました。4大会計事務所などが共同し、GRIやSASBといった報告フレームワークに基づき、企業がどういった情報を開示すべきかをとりまとめた資料になっています。企業のESGに関する報告フレームワークはいくつも存在していますが、WEFはこういったフレームワーク間での一貫性や比較可能性が低く、どのフレームワークを使っても企業が「全てのステークホルダー」から信頼される形で情報を開示できないという課題感がありました。そこで、業界や国・地域の垣根を超えて、企業の主要な年次報告書に反映できるような指標としてとりまとめ、今回のホワイトペーパーとして発行するに至りました。本記事では、この資料について簡単にご紹介していきます。指標について企業には、自社とって重要かつ適切と判断した、できるだけ多くの中核指標及び拡大指標を報告することが推奨されています。ですが、記載されている指標全ての開示を求めるものではありません。特定された指標の構成本資料では、21の中核指標と34の拡大指標が特定されています。中核指標:より確立され、非常に重要な、一連の21の指標と開示事項。既に多くの企業が関連する情報を開示している。主に定量的案指標で、企業自身に関する活動に焦点をあてています。拡大指標:現在の慣例や基準ではあまり取り入れられていな傾向があり、より広いバリューチェーンを含み、金額のようなより洗練された明確な形で、影響の程度を表すことができる指標。持続可能な価値創造を測定し伝えるための、より先進的な指標となっています。各指標は、SDGsおよび主要なESG領域と整合性のある4つの柱「ガバナンスの原則」「地球」「人」「繁栄」に分類されています。各柱は最大7つのテーマで構成されており、各テーマは全ての企業の持続可能な価値創造に重要なものとなっています。各テーマには1つ以上の指標があり、各指標には「開示事項」「出典」「論理的根拠」も示されています。21の中核指標【第1の柱:ガバナンスの原則】目的の設定、ガバナンス機関の構成、ステークホルダーに影響を与えるマテリアル・イシュー、汚職防止、倫理的助言と通報制度の保護、リスクと機会のビジネスへの統合【第2の柱:地球】温室効果ガス(GHG)排出量、TCFDの実施、土地利用と生態系への配慮、水ストレス地域における水消費量および取水量【第3の柱:人】多様性とインクルージョン、賃金の平等、賃金水準、児童労働・強制的労働のリスク、健康と安全、トレーニング【第4の柱:繁栄】雇用者数と比率、経済的貢献、金融投資への貢献、研究開発費総額、納税総額34の拡大指標【第1の柱:ガバナンスの原則】目的主導型のマネジメント、戦略的マイルストーンに対する進捗、報酬、ロビイングに関する戦略とポリシーの整合性、非倫理的行為による金銭的損失、資本配分のフレームワークにおける経済面・環境面・社会面でのトピックス【第2の柱:地球】パリ協定に則った温室効果ガス排出量目標、温室効果ガス排出量の影響、土地利用と生態系への配慮、土地利用と生態系変化の影響、淡水の消費と取水の影響、大気汚染、大気汚染の影響、栄養素、水質汚染の影響、シングルユースプラスチック、固形廃棄物処理の影響、資源の循環性【第3の柱:人】賃金格差、差別・ハラスメントのインシデント数(件)と金銭的総損失額、結社の自由と団体交渉のリスク、人権レビュー・苦情の影響と現代の奴隷制度、生活賃金、業務上のインシデントが組織に与えた金銭的影響額、従業員のウェルビーイング、埋まっていない熟練職のポジションの数、トレーニングの金銭的影響【第4の柱:繁栄】インフラ投資とサービス支援、著しい間接的な経済的影響、社会的価値の創出、活力指数、社会的投資の総額、間接納税付額、主要な事業所のある国ごとの納税総額これらの指標は、業界やビジネスモデルを限定せず、普遍であることが重視されています。そのため、業界や会社特有で重視する指標やテーマに代わるものではなく、それらは引き続き、各社の状況において情報開示することが推奨されています。今後に向けて自社の戦略目標を、SDGsに明記されているような社会の長期的な目標と一致させている企業は、長期的に持続可能な価値を生み出す可能性が高く、ビジネス、経済、社会、地球にとってプラスの結果を生み出すことになります。これがタイトルにもある「ステークホルダー資本主義」の定義です。投資家を含むステークホルダーは、「ESGの要素は企業の長期的な価値創造にとって一層重要になる」と考えており、企業がESG情報や関連するリスクと機会について、財務報告と同レベルの規律と厳密さをもって報告することを求めています。企業には、本資料に基づいて主要な年次報告書を作成することが求められています。そこでは、事業運営や持続可能な価値創造に関わる重要なリスクと機会について検討している旨を開示し、持続的に成長できる企業であるとステークホルダーに等しく示すことが期待されています。【参考サイト】・「ステークホルダー資本主義の測定」世界経済フォーラム