2023年6月、「OECD多国籍企業行動指針(以下、同指針)」が12年ぶりに改訂されました。同指針は、多国籍企業が責任ある行動を自主的にとるよう導くため、OECDによって1976年に策定された国際的なガイドラインです。同指針に法的拘束力はありませんが、多くの国が法規制を準拠させていることから一定の影響力を持っています。今回の改訂によって、デュー・ディリジェンスの要求レベルが引き上げられ、適用範囲や課題が拡大されました。■今回の改訂における主な更新点① デュー・ディリジェンスの適用範囲を拡大デュー・ディリジェンス規定は2011年の改訂時から盛り込まれていますが、その適用範囲は限定的なものでした。サプライチェーンの上流だけでなく下流も含むすべての取引関係に対して、リスクに基づくデュー・ディリジェンスを実施すべきとしています。② 弱い立場にある個人やグループの保護と意義あるステークホルダーエンゲージメントの必要性を協調人権擁護者や先住民を含む弱い立場にある個人やグループの保護について、特に注意を払うべきである。また、そうしたステークホルダーの声を反映するために潜在的な障壁を特定、排除し、意義あるステークホルダーエンゲージメントを実施することが重要だと示されました。③ 結社と団体交渉の自由を尊重すべき対象を拡大2011年改訂版の同指針では、企業が雇用する労働者に対して結社と団体交渉の自由を尊重すべきと規定されており、対象者が限定的でした。今回の改訂によって、全ての労働者に対して結社と団体交渉の自由を尊重すべきと変更され、対象者が拡大されています。④ 企業が気候変動と生物多様性に関する国際的に合意された目標と整合することを要求企業の気候変動と生物多様性に関する取り組みは、パリ協定や昆明・モントリオール生物多様性枠組などの国際的に合意された目標と整合すべきとしています⑤ デュー・ディリジェンスを実施すべき課題を拡大環境については気候変動、生物多様性の損失、陸上・海洋・淡水の生態系の劣化、森林破壊、大気・水・土壌の汚染、有害物質を含む廃棄物の誤った管理など、汚職についてはすべての汚職を対象にデュー・ディリジェンスを実施すべきとしました。また、新たに科学技術もデュー・ディリジェンスを実施する対象に加えられています。⑥ 責任ある企業行動の情報開示に関する推奨事項を更新企業は、「責任ある企業行動のためのOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス」が示す6つのステップ(図1参照)に従って、責任ある企業行動に関する情報を開示することの重要性を強調しています。図1:「責任ある企業行動のためのOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス」デュー・ディリジェンス・プロセス、及びこれを支える手段■同指針の改訂による日本企業への影響は?同指針の今回の改訂において特に注目すべきなのは、デュー・ディリジェンスに関する要求レベルが引き上げられたことです。欧州で議論されている「企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令(CSDDD)案」をはじめ、各国で進んでいるデュー・ディリジェンスの義務化に関する法律は同指針を参照しており、今後近い水準のデュー・ディリジェンスがグローバルに要求されることが予想されます。図1に示すデュー・ディリジェンスのステップを確実に実行するための準備には多大な時間を要するため、日本企業は日本政府による義務化を待たず、今回改訂されたガイドラインを参照しながら、早期にデュー・ディリジェンスの準備に着手することが重要です。【参考】OECD多国籍企業行動指針 2023年改訂版(英語)責任ある企業行動のためのOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス(日本語版)外務省サイト OECD多国籍企業行動指針