既に、ESG、サステナビリティの情報開示に関する様々なフレームワークがあります。これらフレームワークは統合したり、また違う組織が新たにフレームワークを作成したりといった動きがあり、そういった中で「マテリアリティ (重要性)」の定義はいまだに統一されていません。そして近年、2019年に欧州委員会が公表した「非財務情報開示指令に関するガイドライン」の中で示されたこともあり、「ダブルマテリアリティ」「シングルマテリアリティ」「ダイナミックマテリアリティ」といった用語が使われ始めました。今回はこれらの用語の基本的な考え方をご紹介します。■ダブルマテリアリティとは企業は社会・環境と相互に影響を及ぼしあっています。その双方向の影響を考慮してマテリアリティを特定するのが「ダブルマテリアリティ」です。これに対して、企業が社会・環境から受ける財務的影響のみを考慮したものを「シングルマテリアリティ」と言います。また、SASBの実施入門書では、気候変動を例に「二重の(ダブル)マテリアリティ」として紹介されています。SASB実施入門書よりダブルマテリアリティとシングルマテリアリティは、どちらが正しいというものではありません。EUの非財務情報開示指令(CSRD)はダブルマテリアリティを、IFRS財団のサステナビリティ報告基準やSASBはシングルマテリアリティを基本とする方向です。■ダイナミックマテリアリティとはマテリアリティは「時代とともに変化する動的なものである」という考え方です。これまで考慮してこなかったテーマが環境・社会的に重要になったり、財務的に重要になったりするという考えのことで、「ダブルマテリアリティ」「シングルマテリアリティ」といった対象範囲に関するものではありません。「ダイナミックマテリアリティ」では、影響の程度も時間の経過とともに変化するものとしています。この「ダイナミックマテリアリティ」が示されたのは、2020年9月に5つの団体(CDP、CDSB、GRI、IIRC、SASB)が公表した共同声明「Statement of Intent to Work Together Towards Comprehensive Corporate Reporting」の中ででした。例えば今回のCOVID-19の蔓延により、これまではマテリアリティと見ていなかった従業員やその家族の健康課題を、財務的マテリアティとして見直すことなどが、まさにダイナミックマテリアリティの考えと言えます。EUの「非財務情報開示指令(CSRD)」の改定関連の資料内では、マテリアリティ特定プロセスを下の図 のように示しています。報告企業に関連するすべてのサステナビリティ課題(ダブルマテリアリティの考え方による。青い点線)内に、財務的マテリアリティ(緑の四角)があり、財務的マテリアリティの範囲は変化することがダイナミックマテリアリティ(青い実線)として示されています。 重要課題は必要に応じて見直し、柔軟に対応することが必要であるということが示されています。「PROPOSALS FOR A RELEVANT AND DYNAMIC EU SUSTAINABILITY REPORTING STANDARDSETTING 」よりYUIDEA仮訳【参考リンク】第1回非財務情報の開示指針研究会事務局資料(経済産業省)サステナビリティ報告に関する協議ペーパー(IFRS財団)PROPOSALS FOR A RELEVANT AND DYNAMIC EU SUSTAINABILITY REPORTING STANDARDSETTING(EU、非財務情報開示指令の改定関連資料)【関連記事】真の環境企業を可視化する「EUタクソノミー」。簡単解説