YUIDEAは、2019年10月18日に統合報告入門セミナー「これだけは入れたい統合報告のポイント」を主催しましたプログラム後半では、機関投資家協働対話フォーラムから2名の登壇者をお招きして、「投資家に評価されるための情報開示のポイント」をテーマにディスカッションを行いました。今回はディスカッションの内容から、投資家視点で情報開示に求められるポイントをまとめます。■機関投資家協働対話フォーラム機関投資家の適切なスチュワードシップ活動に資するよう、機関投資家が協働で行う企業との建設的な「目的を持った対話」(協働エンゲージメント)を支援する目的で設立された組織。機関投資家協働対話フォーラムHP■登壇者木村祐基氏:IICEF代表理事 理事長/(社)スチュワードシップ研究会 代表理事山崎直実氏:IICEF代表理事 事務局長/(社)株主と会社と社会の和 代表理事ディスカッション「投資家に評価されるための情報開示のポイント」■企業と投資家の対話についてQ:投資家と企業間における対話の課題とは?山崎氏:前職の事業会社でIR担当をしていた時には、私は投資家と対話していると思っていました。ですが、改めて振り返るとIRミーティングでは、企業側は投資家の質問に答えるだけのことが多く、質問の背景は想像するだけだったことに気づきました。企業側がもっと質問の背景を聞き返したり、ネガティブな内容まで踏み込んだ話をしたりして、投資家の質問の真意を聞くとよいと思います。Q:統合報告書について、対話のツールとして感じていることは?A:テクニカルな話では、統合報告書に投資家が質問したくなる仕掛けをしてほしいです。報告書も作って渡して終わりではなく、投資家の関心が高い項目や質問したくなるような項目を記載し、ミーティングで投資家からの質問をもらうと、対話になってより良いと考えます。■投資家が求める「統合思考」とはQ:自社の統合思考をどう確立し投資家にアプローチすべきか?A: バックキャスティングで、中長期的に到達したい「目的地」と、その目的地に向けてどう取り組むのか(戦略、リスクと機会)、その戦略を進める役員体制などのガバナンス、戦略推進を裏づける財務戦略を整理して説明してほしいです。そのためにも、まずは自社の状況の棚卸が必要です。投資家へのアプローチの肝は価値創造ストーリーです。企業の資産には、顧客との信頼関係、従業員満足、社会や環境との関わりなどがあり、一見お金と関係ないことのように思われますが、実はこれらが将来キャッシュフローを生み出します。しかし、ESGを説明する際には、様々な資産を使って、どれくらいの将来キャッシュフローを生み出そうとしているのかまでがイメージできるように説明しないと、投資家には響きません。ですので、環境問題に取り組むことがこの企業の事業にとってどのようなインパクトを生み出すのかまでを説明することが大事です。また、日本では3年間程度の中期経営計画を立てる傾向が強いかと思います。しかし、達成したい「目的地」は3年では達成できません。「目的地」に向けた長期の戦略をつくる際には、3年の計画をつくる際とは違った視点が必要です。■投資家が情報開示をみるポイントQ:統合報告書と有価証券報告書とコーポレートガバナンス報告書、それぞれに掲載されているコーポレートガバナンスを、投資家はどう見ているのか?A:投資家が知りたいのは定型の文章ではなく、ガバナンスに関するその企業の考え方です。例えば、経営戦略としてグローバル展開を目指す企業であれば、グローバル化を進めるために、どのようなガバナンス体制にするか、が見えてくるような情報が好ましいです。当然、外国人役員は必要でしょうし、海外の子会社のオペレーションなど、グローバル企業としてふさわしいガバナンスへの進化(例、外国人プロ経営者を招聘できるような役員報酬制度、迅速な事業展開のための海外子会社への権限移譲など)を、自社の戦略に沿って説明していることなどです。投資家は、コーポレートガバナンスに関して、有価証券報告書やコーポレートガバナンス報告書を基本的に見ていますが、上記のような企業が自由に記述できる統合報告書の情報を参考にしています。特に、対談は企業の考えが良く分かるコンテンツだと思います。Q:投資家は、どういった統合報告書に信頼性を寄せますか?A:投資家は、社長のトップメッセージをよく読みます。例えば、後半の報告ページにESGの取り組みを載せていても、社長メッセージの中で社長が長期戦略との関連性をもってESGへの取り組みを語っていなければ、活動への本気度が弱いと見なされる可能性があります。また、有価証券報告書やコーポレートガバナンス報告書とは異なる統合報告書の特徴として、カルチャー(企業文化)をより伝えられるツールだと思っています。ですので、社史(沿革)のページを設けることは重要であり、他にも、社長メッセージや役員、社員の言葉、実際の写真などで、カルチャーを伝えることが出来るかと思います。また、信頼できる情報開示にするためには、報告書の中に矛盾がないようにすることです。例えばトップがコミットしている活動が、マテリアリティに含まれていない、報告ページに掲載されていない、もしくは別のことを言っているなどの矛盾がないように気を付けたほうが良いでしょう。以上、ポイントをまとめます。統合報告を用いた投資家とのコミュニケーションのポイント■企業と投資家の対話について「投資家からの質問に企業が答える」という質疑応答形式になってしまいがち。企業側が投資家へ質問を投げかけて対話の起点としていくことが好ましい。報告書は説明の機会を設けることで対話ツールとしても活用していくべき。■投資家が求める統合思考とは長期計画からバックキャスティングされた価値創造ストーリーを示してほしい。価値創造ストーリーにおいては将来キャッシュフローが説明されることが重要である。■投資家が情報開示を見るポイントガバナンスは定型文よりも、戦略と連動した変化が示されていることを重視している。報告内容の信頼性は、財務の結果、トップメッセージ、企業文化などから確認している。【パネル登壇ゲスト】木村 祐基氏一般社団法人 機関投資家協働対話フォーラム理事長1973年一橋大学商学部卒業、野村総合研究所入社。企業調査部にて証券アナリスト業務に従事。第四企業調査室長、野村総研香港社長、エマージング企業調査部長を経て、1996年野村投資信託委託(現野村アセットマネジメント)に移籍。企業調査部長兼経済調査部長、参事コーポレートガバナンス担当などを歴任。2008年1月から2010年8月まで、企業年金連合会年金運用部コーポレートガバナンス担当部長。2010年11月から2014年7月まで、金融庁総務企画局企業開示課専門官。2014年、一般社団法人スチュワードシップ研究会を設立、代表理事に就任。【パネル登壇ゲスト】山崎 直実氏一般社団法人 機関投資家協働対話フォーラム事務局長1985年横浜国立大学経済学部卒業 株式会社資生堂入社。営業、商品開発・マーケティングに従事し、1995年、慶応義塾大学大学院修士課程に国内留学。1997年会社復帰し、経営企画、新規事業開発、ITを経て、2003年よりコーポレートガバナンス、ディスクロージャー、株主総会・株式実務を担当。GLとして、機関投資家や議決権行使助言会社、ESG調査機関、年金基金等との対話を重ね、IR/SRを推進。2014年資生堂を退職。同年、一般社団法人株主と会社と社会の和を設立、代表理事に就任。経産省「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~(伊藤レポート)」委員、同省「コーポレートガバナンスの開示の在り方分科会」委員を歴任。