統合報告書を作成することによって、企業の透明性が高まり、投資家からの信頼を獲得できます。また、サステナビリティ経営を推進し、長期的な企業価値向上に貢献します。しかしその作成プロセスには複数の課題が存在することも事実です。経営層の理解と支援を得ることの難しさ、関係部門間の協力体制の構築の難しさ、社内リソースや予算の確保が難しいということが主な障壁となっています。そのため、統合報告書作成のメリットを経営層や関係者に十分に理解していただくことが極めて重要となります。この記事では、企業側と投資家側それぞれの視点から、統合報告書作成のメリットを解説します。これらの情報は、統合報告書の戦略的な観点でどのように位置づけられるべきかや、その意義について理解を深め、意思決定プロセスにおいて有用と思われます。ぜひ統合報告書の作成や検討に関わる方への協力依頼などにご活用ください。企業側にとっての統合報告書作成の7つのメリット1.投資家とのコミュニケーションを強化できる:統合報告書は、企業の価値創造ストーリーを分かりやすく伝えることで、投資家とのコミュニケーションを強化し、信頼関係を構築することができます。 投資家は、企業の財務状況だけでなく、非財務情報、特に ESG 情報を重視する傾向が強まっているため、統合報告書を通じてこれらの情報を積極的に開示することで、投資家のエンゲージメントを高めることが期待できます。例えば、統合報告書に、トップがサステナビリティや企業価値創造へのコミットメントを表明するメッセージを記載することで、投資家は、トップの情報開示へのコミットメントや経営課題への理解を知ることができます。 また、社外取締役のメッセージを記載することで、ガバナンスや資本政策に関して取締役会のコミットメントを示すことができます。 さらに、有価証券報告書などの法定開示書類では伝えきれない非財務情報や定性情報を伝えることで、企業の社風や企業文化を感じてもらう効果も期待できます。2.企業価値創造プロセスを明確にし共通認識とすることができる:統合報告書の作成プロセスを通じて、企業は自社のビジネスモデル、戦略、リスク、機会などを改めて分析し、整理することができます。 これにより、企業は自社の価値創造プロセスをより深く理解し、その強化につなげることが可能になります。統合報告書は、企業価値向上に向けた自社の経営のあり方を整理し、振り返るとともに、SX を実現するためのマネジメントツールとして活用し、具体的なアクションにつなげていくためのツールとして機能します。3.統合思考を促進することができる:統合報告書の作成には、財務情報と非財務情報を統合的に捉える「統合思考」が不可欠です。 統合思考を促進することで、企業は、短期的な利益だけでなく、長期的な企業価値の最大化を図ることができます。【関連記事】統合報告に必要な、6つの統合思考原則4.企業の透明性と説明責任の向上につながる:統合報告書を通じて、企業は、財務・非財務情報を含む、企業価値創造に関する情報を網羅的かつ透明性高く開示することができます。 これにより、企業は、投資家を含むステークホルダーからの信頼を高め、企業価値の向上につなげることができます。5.社内コミュニケーションの活性化につながる:統合報告書の作成プロセスは、経営層から従業員まで、企業全体で価値創造について議論する良い機会となります。これにより、従業員のエンゲージメントを高め、望ましい企業文化の醸成にもつながります。6.ブランドイメージの向上につながる:統合報告書を通じて、企業の総合的な価値や持続可能性への取り組みを伝えることで、多様なステークホルダーに対して企業の魅力を効果的にアピールすることが可能です。また環境・社会課題への取り組みや長期的な成長戦略を明確に示すことにより、投資家からの支持を獲得することにつながります。さらに製品やサービスの背景にある企業理念や社会的価値を伝えることで、ブランドへの共感と信頼を深め、顧客ロイヤリティの向上や競合他社との差異化にもつながります。このように統合報告書は多様なステークホルダーとの関係性を通じてブランド価値を高め、持続的な競争優位性の構築に貢献する重要なツールとなります。7.優秀な人材の獲得・定着につながる:統合報告書は、企業の価値観・ビジョン・および持続可能な成長への取り組みを明確に提示することで、自社の魅力を効果的にアピールすることが可能です。特に社会的責任や持続可能性を重視する若い世代の人材にとって、統合報告書は企業選びの重要な判断材料となります。また、従業員に対しては、会社の長期的な方向性と個人の貢献が企業価値にどう結びつくかを示すことで、仕事への誇りと意欲を高め、エンゲージメントの向上や長期的な定着率の向上につながります。このように統合報告書は、優秀な人材の獲得と維持に重要な役割を果たします。投資家側にとっての統合報告書の4つのメリット1.企業の長期的な価値創造・ポテンシャルを理解につながる:投資家は、統合報告書を通じて、企業の財務状況だけでなくESG 情報を含む非財務情報を統合的に理解することができます。 これにより、企業の長期的な成長性や持続可能性、ひいては企業価値をより的確に評価することが可能になります。 例えば、統合報告書を参照することで、企業の現状や将来見通し、ガバナンスの有効性、価値創造プロセスなどを把握することができます。2.投資リスクの軽減につながる:統合報告書は、企業のリスクと機会に関する分析や、その対応策に関する情報も提供します。 これらの情報に基づいて、投資家は、投資リスクをより的確に把握し、軽減することができます。3.投資判断の精緻化につながる:統合報告書を通じて得られる包括的な情報に基づいて、投資家は、より精度の高い投資判断を行うことができるようになります。4.エンゲージメントの促進につながる:統合報告書は、企業と投資家の建設的な対話を促進するためのツールとしても機能します。 統合報告書の内容について対話を行うことで、投資家は、企業への理解を深め、より良い投資判断を行うことができます。統合報告書作成の課題と今後の展望統合報告書の作成には、有価証券報告書やコーポレートガバナンス報告書といった媒体との記載内容の重複や、企業側の負担増加といった課題が存在します。 現在、情報開示のあり方に関する議論が進む中で、一つの法定開示書類により多くの情報を盛り込む体系を目指すべきとする意見が多く挙げられています。統合報告書の位置づけは現時点では任意開示のままですが、投資家からの統合的な情報開示への要請が高まる一方で、企業にとっても統合報告書作成による様々なメリットが認識されています。今後、企業は法定開示要件の変更可能性も視野に入れながら、これらの状況を踏まえつつ、統合報告書の役割や位置づけをより明確にしていく必要があります。効果的に自社の価値創造プロセスを伝えられる開示方法を検討し、ステークホルダーとの有意義なコミュニケーションツールとして統合報告書を活用していくことが求められるでしょう。【関連記事一覧】統合報告書を初めて作る方へ統合報告書で企業価値を最大化する:作成ガイドとおさえるべきポイント・最新情報統合報告に必要な、6つの統合思考原則国際統合報告フレームワークの改定ポイント価値協創ガイダンス2.0WICIジャパン統合リポート・アウォード統合報告書におけるROICツリー掲載事例【最新2024年版】統合報告書・サステナビリティレポートでのコア・コンテンツ事例