2020年、日本政府は「国際社会を含む社会全体の人権の保護・促進」「日本企業の国際的な競争力及び持続可能性の確保・向上」などを目的に「ビジネスと人権に関する行動計画(2020-2025)」を策定しました。これを受けて、2021年12月、日本経済団体連合会(経団連)は企業行動憲章実行の手引きの「第4章 人権」を改訂、あわせてその具体的対応方法を示した「人権ハンドブック」を公表しました。また、法務省は「今企業に求められるビジネスと人権への対応」、経済産業省は「日本企業のサプライチェーンにおける人権に関する取組状況のアンケート調査」を公表するといった動きがあり、企業への期待が高まっています。今回はこれらの概要をご紹介します。日本経済団体連合会、企業行動憲章「実行の手引き」の改訂・人権ハンドブックの公表企業行動憲章自体は「4、すべての人々の人権を尊重する経営を行う」から変更はありませんが、「実行の手引き」が以下のように改訂されました。現行の項目改定後の項目(1)人権の尊重は人類共通の不可欠な価値観(1)人権に関する企業の役割への期待の高まり(2)人権を保護する国家の義務と、人権を尊重する企業の責任(2)人権に関する法制化の動き(3)日本政府の対応と諸外国における法制化の動き(3)人権尊重の取組みによる企業価値向上(4)企業の自主的な取組みの重要性(5)人権尊重への自主的な取組みによる企業価値の向上(6)国際社会で注目される人権課題(7)Society 5.0における新たな人権課題(4)包摂的な社会の実現への貢献(8)包摂的な社会の実現への貢献「企業の人権尊重の取り組みの全体像」として下図が紹介されており、特に企業が対応すべき項目として①人権尊重責任の方針を策定し、コミットメントを表明する② 人権デュー・ディリジェンスを実施する③ 自社が人権に関する負の影響の原因となった、あるいは助長したことが判明した場合に、是正を可能とする苦情処理メカニズムを整備するを挙げ、それぞれの対応方法について紹介しています。合わせて公表された「人権を尊重する経営のためのハンドブック」は、 手引きの項目についてのより詳細な資料となっており、関連する条約や海外の法規制、Q&A、ESG投資における人権の評価なども紹介されています。詳細はこちら日本経済団体連合会、企業行動憲章「実行の手引き」の改訂・人権ハンドブックの公表法務省「今企業に求められるビジネスと人権への対応」本資料は、2020年10月に「『ビジネスと人権』に関する行動計画(2020-2025)」が公表されたことを踏まえ、企業における人権尊重の取組強化に資するための研修教材として作成されました。人権に関する取り組みが事業活動に及ぼすポジティブ・ネガティブな側面を整理したりと、事業活動への影響を実感できるような内容になっています。詳細はこちら法務省「今企業に求められるビジネスと人権への対応」経済産業省「日本企業のサプライチェーンにおける人権に関する取組状況のアンケート調査」経済産業省と外務省が連名で実施した本調査は、日本企業のビジネスと人権への取組状況に関する政府として初の調査です。2021年8月末時点での東証1部・2部上場企業を対象とし、760社が回答しました。経団連が示した企業に期待する3項目への対応状況は、人権方針策定:69%(523社)デュー・ディリジェンスの実施:52%(392社)苦情メカニズムの整理(救済・通報体制):49%(371社)となっていました。人権への対応は、サプライチェーン全体で対応することが求められていますが、デュー・ディリジェンスを実施している企業でも、間接仕入先を対象としている企業は392社中25%にとどまっており、今後の対応が期待されます。詳細はこちら経済産業省「日本企業のサプライチェーンにおける人権に関する取組状況のアンケート調査」企業は何をすべきか先述の通り、企業には「人権方針策定」「デュー・ディリジェンスの実施」「苦情メカニズムの整理」が期待されています。これらに対応するには、経団連の資料が参考になります。また、社内での意識啓発には法務省の、日本企業の現状を知るには経済産業省の資料が参考になります。このほかにも、サステナビリティ情報開示のフレームワークであるGRIの共通スタンダードでも人権に関するインパクトやデュー・ディリジェンスについて報告するように改訂されました。加えて、項目別スタンダードも人権の観点で見直しがかかると予定されています。情報開示の面でも企業の人権対応への要請が高まっています。