3/18〜19、東京・丸の内にサステナビリティ領域のグローバルリーダーが集い開催された「サステナブル・ブランド国際会議2025」。この国際会議開催に合わせ、10の無料オープンセミナーが催された。今回はこのセミナーのうち「サステナビリティ推進部はなぜ『マーケティング本部』に位置づけられたか~その狙いと効果~」と題して開かれたトークセッションを取材した。本記事では、株式会社YUIDEAの勝 綾子をファシリテーターに、株式会社ファミリーマート(以下、ファミリーマート)の大澤 寛之氏(マーケティング本部 サステナビリティ推進部 部長)が語った組織変更の背景や意図、サステナビリティ情報の戦略的な発信によって起きた変化などをレポートしたい。(画像出典:ファミリーマートHP)地域密着・多店舗展開だからこその財産今年3月、消費期限の迫った食品に貼る値下げシールを「涙目シール」に変更することで食品ロスを削減する、というユニークな取り組みを実施したことも記憶に新しいファミリーマート。サステナビリティ推進の組織と言えば、日本企業では管理系の部門下に組織されるケースが多い。ファミリーマートも、以前は管理本部の中にサステナビリティ推進部があったそうだが、23年3月からはマーケティング本部に位置付けられることになった。そこに至るまでの背景について、大澤氏は次のように語る。大澤氏:そもそも我々の場合、「コンビニ」というビジネスモデルも、また掲げているコーポレートメッセージ『あなたと、コンビに、ファミリーマート』も、サステナビリティとの親和性が高いと感じていました。実際、マーケティング本部に組織される以前からも「環境対応」「社会課題解決」「多様性尊重」の3つを柱に、誰にとっても身近な存在である全国の店舗を拠り所に活動してきています。全国で約1万6300店舗、1日約1500万人の利用客、そして約22万人の店舗スタッフという規模のファミリーマート。全国の地域・幅広い年齢や属性の利用客との接点、様々な業界のサプライヤーとの接点、多様な国籍の従業員など、もともと持っている財産が非常に多いことが強みだという。ほんの一例に過ぎないが、同社の活動の事例をいくつか挙げると、スプーンなどのプラスチック削減の施策、店舗にて余剰食品の寄付を募るファミマフードドライブ、地域活性化のためのファミマこども食堂、LGBTQ+への理解促進などの取り組みがある。(画像出典:ファミリーマートHP)しかし、これほど力強くサステナビリティを推進している中で、敢えてマーケティング本部の組織下に置かれる必要はあったのだろうか?当時の組織課題について、同氏は以下のように振り返る。大澤氏:熱心に良いことをしていても、それを「伝える」ことはあまり考えられていなかったと思います。「いかに良くしていくか、いかに社内の協力者を増やしていくか」が考えの中心で、「知っていただく機会をどうやって増やすか」という考えは薄かったのです。ちなみにかつてファミリーマートが実施した商品の消費者テストでは、どの企業の商品かをオープンにした試食とブラインドにした試食とで、美味しいと感じる商品の結果が変わったケースがあるそうだ。大澤氏はこのような事例からも、ブランディングが消費者の知覚にも影響を与え、ひいては商品を選ぶか否かにも影響を与える可能性があることを知った、と話す。大澤氏:これからも選ばれていくためには、商品・サービスの質は大前提ですが、ブランドイメージのひとつとして「サステナビリティ領域」の取り組みや発信も、重要になってくる時代です。組織変更には、こうした背景があったのだと捉えています。「知ってもらえないと意味がない」徐々に腹落ちしたマーケティング視点商品の魅力を知ってもらうため、どこでどのように訴求するか?を考え続けるマーケティング本部。その組織下に配置することで、サステナビリティ活動についても戦略的な発信を強化していくための組織変更というわけだ。体制が変わり約2年が経過したわけだが、その間どんな変化があったのだろう?大澤氏:これまでも純粋に「知っていただきたい」という思いはありましたが、具体的なKPIを設定して、メディアにどれくらい取り上げてもらうかなどの視点はなかったのが事実です。組織が移ってまもなくは戸惑いもありましたが、どんなに良い商品も取り組みも「知ってもらえないと意味がない」という考えが徐々に腹落ちしていったと思います。徐々に腹落ちしていった、というその過程において、伝え方を工夫することでの変化を目の当たりにしたことは大きかったようだ。大澤氏:メディア露出の機会が圧倒的に増えていきました。またそれにより、社内外から反響や賛同の声が集まるようになりました。受けられるリアクションの量が、それまでと明らかに違ってきたのです。これまでは発信といえば広報に依頼するものでしたが、マーケティング本部に来てからは自分たちが当事者です。メディアに取り上げてもらうためには?という視点で動きはじめるようになり、結果として発信件数やメディア掲載機会が増えていくことを実感し、自然に意識と行動が変わっていったと思います。<cap>マーケティング本部に移る前後で、発信件数・メディア掲載件数が大きく変化したことを語る大澤氏。<cap>SNS運用の強化の結果、サステナビリティ関連のX投稿も、商品やキャンペーン関連の投稿に匹敵するインプレッションになっているという。親しみやすく、楽しそうに。伝え方一つで大きく変化した数値同社がマーケティングで目指す方向性は「チャレンジするほうのコンビニ」「クラスの人気者」「強く、もれなく、広く」の3つだという。サステナビリティ推進部もここに沿う形で変容しながら、「ユニークでチャレンジングな取り組み」を「クラスの人気者のような親しみやすさ」で「少しずつ形を変えながら繰り返して広めて定番化」していくことを目指している。しかし様々なKPIをおいてアクションを繰り返すマーケティングでは当然、それが達成できるテーマ・訴求なのか?という視点が求められる。そしてそれは、以前の自分たちにはない視点だったという。先述のような数値の変化は、組織変更の中でトライアンドエラーを繰り返しながら模索してきた結果だ。そのトライの事例として、大澤氏からはプレスリリースタイトルの改善、SNS運用の改善が挙げられた。プレスリリースのタイトルでは上記画像のように、事実を並べるだけのものから、キャッチーなキーワードを加えて関心を引きやすいものに変更を試みた結果、社内におけるKPIであるメディア掲載件数が達成できたという。中には、タイトルがそのままメディアで使用されたケースもあるとのこと。大澤氏:「メディア側が取り上げたいと感じるだろうか?」の視点で考えるだけで、取り組み自体は同じでも伝わり方は変わってきますし、“サステナブル”も「楽しそう」と思ってもらえるのでは、と感じましたね。またSNS運用に関しては、以前の組織ではほとんど活用していなかったXをフル活用。膨大な情報が流れていくSNSにおいて、引用リポストでの複数回投稿、イベントやモーメントに合わせた投稿、埋もれにくい曜日での投稿などの工夫を重ねることで、同テーマの投稿でも前年から大幅にインプレッションがアップしたという(上記画像参照)。SNSの特性を活かした投稿やデザインの工夫の結果、前年と同じ企画でも、より広い認知に繋がった事例だ。「事実」があるから発信できる社員自らが「事実」を生み出すまでの取り組みマーケティング視点での発信により、社外へのブランディングが大きく前進した同社。一方、社内に対してはどのような取り組みを行っているのだろう。大澤氏:まずは社内でプロジェクトを始動させ、より力強く推進するため部長以上の社員にSDGs推進リーダーを担ってもらいました。その体制で、サステナビリティ活動に関する社員宛のメール発信、社員のサステナビリティ活動体験機会を設けることなどに継続的に取り組んできています。そして昨年はついに全社規模でワークショップも実施しました。各部署でどんなことができるかを考えてもらったのですが、想像以上に真剣に議論してくれました。他にも有識者による動画講座の視聴やe-Learningも定期的に実践しているというが、その積み重ねの中で社員の意識や行動も変容してきたそうだ。店舗の駐車場スペースを活用した献血の実施はそのうちの一つで、一部地域から始まり全国に広がりを見せている。サステナビリティ推進部が主導せずとも、社員が自発的にアイデアを出して実践し、それが波及していくという、理想的な循環が見え始めている。大澤氏:現場はやはり、社会のニーズや課題に一番触れやすい場所。そこにいる従業員たちがサステナビリティの視点を得られたからこそです。今回は主に発信の工夫について話しましたが、その発信も、土台になるのはあくまでも“ファクト”。ファクトを生み出すためにも、社内の共感を高めていく施策は何より重要だと考えています。組織が一体となり、良いことに「真面目」に取り組む。そしてそれを知ってもらうために「面白さ」や「遊び心」ある伝え方を。マーケティング本部に配置されたことで、ファミリーマートのサステナビリティ推進は、これまで以上に社内外に広く認知され、その取り組みへの賛同を得られるようになった。意義のある取り組みを実践することは土台として必要だが、それを広く認知してもらうためには、効果的に発信を模索することも不可欠だ。ファミリーマートの行った組織変更、そこでの取り組みの数々は、サステナビリティ推進に取り組む多くの企業にとって、可能性とヒントに満ちた事例と言えそうだ。参考サイト●株式会社ファミリーマート 企業HP■執筆:contributing writer Ryoko Hanaoka2025/6/3Sustainable Brand Journey[原文はこちら]Sustainable Brand Journeyブランド価値やカスタマーエンゲージメントの観点に役立つサステナビリティ情報を配信しています。 エシカル時代のマーケティングトレンド、サステナブル・ブランディング事例やお役立ち情報、セミナーのご案内などを定期的にお届けします。