GRIスタンダードの作成・発行を行うGSSBは2024年2月5日、「GRI 14: 鉱業 2024」をリリースし、6月17日には日本語版も公開しました。GRIのセクター別スタンダードとしては、「GRI 11: 石油ガス 2021」「GRI 12: 石炭 2022」「GRI 13: 農業・水産・漁業 2022」に続く第4弾となります。鉱業セクターに属し、GRIスタンダードに準拠した報告を行う組織は、2026年1月1日以降に発行するレポートから対応必須となりますが、早期適用も推奨されています。鉱業は多くの国の経済に重要であり、経済発展や社会福祉に寄与します。気候変動の緩和に向けた世界目標を下支えするクリーンエネルギー技術の必要性からも、鉱物需要はさらに増加することでしょう。しかしその一方で、腐敗や、特に自然資源への依存度が高まっている低中所得国では、環境問題を引き起こすリスクもあります。また、人権への影響や、紛争やコミュニティへの暴力を引き起こす可能性なども懸念されています。この基準は、そのような鉱業セクターが持続可能な開発に与える影響と貢献について、透明性を求める幅広いステークホルダーの要求の中で生まれたものです。■適用対象となるセクターどのような企業が「GRI 14: 鉱業 2024」を使うべきなのか、対象組織の説明もガイドライン内に書かれています。GICS(世界産業分類基準)やSICS(持続可能な産業分類システム)の区分も示されてるので、活用するとよいでしょう。「GRI 14: 鉱業 2024」では、金属や鉱物の採掘・輸送保管のほか、鉱業事業者への特殊なサービス供給をする事業も対象になります。また、GRIのセクター別スタンダードは1社で1種類のみを使うのではなく、実質的な活動が発生する業種のすべてを使用するルールになっています。部分的に関与している事業を持っていないか、改めて確認すると良いかもしれません。■鉱業にとってマテリアルと想定される25項目本スタンダードでは、鉱業セクターの企業にとってマテリアルと想定される25項目を取り上げています。また、いくつかの項目では鉱区(採掘現場)ごとの報告を含んでおり、極めて重大なインパクトが生じる現場について、鉱区ごとに細分化されたデータを積極的に提示するのが望ましいとしています。■セクター特有の項目や追加的な開示事項廃滓(尾鉱)、人力小規模採掘(ASM)、紛争地域および高リスク地域など、鉱業セクター特有の項目が示されているのもポイントです。既存の項目別スタンダードを使用する項目でも、セクター特有の追加項目が設定されている場合があります。また、一部では本スタンダード公開の前月にリリースされた「GRI 101: 生物多様性 2024」の項目別開示事項にもさっそく言及し、追加的なセクター別の推奨事項として、すべての鉱区について、生態学的に影響を受けやすい地域や生物多様性の状態の変化、依存する生態系サービスなどの情報開示を求めています。■企業に求められる対応まずは何より本セクター別スタンダードを深く理解し、前倒しで対応することです。例えば、先ほどご紹介した「鉱区(採掘現場)ごとの報告」のために、極めて重大なインパクトや現場ごとのデータの有無を鉱区別に一覧として整理したテンプレートが示されています。こちらはあくまで一例であるため、自社の慣行に合わせて加工・修正しフォーマットを準備しておくと良いかもしれません。[ 開示事項14.0.1 表3.採掘現場に関する開示事項の情報を提示するためのテンプレート例 ]「GRI 1: 基礎2021」に沿ってGRI内容索引を作成する際には組織が該当するセクター別スタンダードの名称を明記する必要がありますが、鉱業セクターの企業には今後当然に「GRI 14: 鉱業 2024」の名称が入ることとなります。2025年まではいわば移行期間だとしても、対応した情報開示が可能となるスケジュール感を報告するのも一つの方法です。例:住友金属鉱山株式会社「サステナビリティレポート2024」(2024年8月2日発行)[GRI内容索引][編集方針]また「GRI 14: 鉱業 2024」に限らず、セクター別スタンダードは、GRIスタンダードに準拠した報告を行う組織がマテリアルな項目を決定する際にも利用が求められます。「GRI 3: マテリアルな項目 2021」では、マテリアルな項目の決定プロセスを以下のように示しています。既にGRIスタンダードに準拠した報告をしている企業であれば、特にステップ4「報告するための最も著しいインパクトの優先順位付け」に沿って、マテリアルである可能性が高い項目を見落としていないかの再確認にセクター別スタンダードを活用するのが望ましいでしょう。■最後にGRIスタンダードはサステナビリティ報告のための枠組みですが、レポートやサイトを作る「開示」の工程に入るためには、その前段でまず社内の「活動」の部分を変えていくことが必要です。「GRI 14: 鉱業 2024」において想定されるマテリアルな項目への対応には、下流の事業体や投資家、規制当局等から鉱業事業者に対しても期待がますます高まっている人権デュー・ディリジェンスの実施が欠かせません。また、サプライチェーン全体で責任ある鉱物調達に取り組むことが、調達活動における企業の社会的責任を果たしサステナビリティを実現することに繋がります。【関連記事】GRIの生物多様性編がパワーアップ!早めの対応準備を