世界経済フォーラム(WEF)は、公共・民間両セクターの協力を通じて、世界情勢の改善に取り組む国際機関です。1971年に設立されて以来、独立した公正な組織として主要な国際機関と連携して活動しており、毎年年次総会に合わせて「グローバルリスク報告書」を発表しています。※グローバルリスクとは、「発生した場合、今後10年間に複数の国または産業に著しい悪影響を及ぼす可能性のある不確実な事象または状況」のことです。短期、長期における主要なグローバルリスクグローバルリスク報告書2023年版は最新のグローバルリスク意識調査(GRPS)の結果を紹介しており、短期的に発生が予想されるリスク、長期的に発生が予想されるリスク、それらのリスクの連関性が2030年までに天然資源不足を中心とした「ポリクライシス(複合危機)」へ発展していく可能性について検証しています。2023年の年頭に世界が直面したインフレ、貿易戦争、地経学上の対立、核戦争の脅威などといったリスクが、持続不可能な債務、新たな低成長時代の到来、世界的な投資の少なさと脱グローバリズム、気候変動の影響と目標に伴う圧力などによって今後増幅することが予想されています。今後10年間でのリスク今後10年間は、地政学的・経済的な背景のもと、環境、社会的なリスクが顕著になることが予想されています。短期では「生活費の危機」、長期では「気候変動緩和策の失敗」が最も深刻なグローバルリスクとして挙げられました。なお長期におけるリスクは環境面が上位を占め、特に「生物多様性の喪失や生態系の崩壊」は最も急速に悪化するグローバルリスクとして位置づけられています。また短期・長期リスクの双方で「地経学上の対立」、「社会的結束の侵食と社会の二極化」、「サイバー犯罪の拡大とサイバーセキュリティの低下」、「大規模な非自発的移住」などがランクインしています。■地政学的緊張による金融危機と社会の脆弱性の増幅ウクライナ侵攻の長期化、長引く新型コロナウイルス流行、経済戦争によるサプライチェーンの寸断などの懸念から、各国政府と中央銀行は少なくとも今後2年間インフレ圧力にさらされることが予想されます。最終的には世界経済の分断や地政学的緊張によって、今後10年以内に大規模な世界金融危機に発展する恐れがあります。また、世界的な生活費の危機や安全保障上の懸念により、多くの国は財政的な余力を持つことが難しくなる見通しです。開発途上国だけでなく先進国でも、公共インフラやサービスの衰退が徐々に進行し、今後直面する様々なリスクを緩和するための人的資本や開発能力に悪影響が出ることが考えられます。このように不安定な領域が増えることで、ポリクライシス(複合危機)のリスクが加速。地政学的な緊張が環境や社会経済に影響し合った結果、天然資源の需給などへ影響することも懸念されています。■自然破壊による気候変動緩和の抑制気候変動と環境に関わるリスクは最も備えが不十分だと指摘されています。自然の喪失と気候変動は連動していますが、ネットゼロ実現のために必要なことと政治的に実現しようとしていることとのギャップがあり、気候変動緩和策の規模は縮小しようとしています。今後も自然生態系の果たす役割が軽視され続けることで、気候変動の緩和策が滞ってしまうことが懸念されています。レジリエンスへの投資が重要2022年度までのグローバルリスク報告書では、環境面のリスク深刻化が取り上げられていました。しかし、ウクライナ侵攻の長期化や長引くパンデミックを背景にグローバルな金融危機のリスクも浮上しています。ただし、気候変動と環境に関するリスクは引き続き注視すべきリスクであり、気候変動緩和策の失敗は最大の長期リスクともされています。未来への投資減少はレジリエンス低下につながるため、本来ならグローバルリスク緩和のために人材育成や開発をする必要があります。ある分野のレジリエンス強化は他の関連リスクにも効果をもたらします。ポリクライシス発生を未然に防ぐべく、長期的なリスクを予見したレジリエンス強化への投資が重要になります。【参考リンク】グローバルリスク報告書2023年版(WEF発表)