日本でもEUタクソノミーという言葉を耳にすることが多くなりました。既に、何人かの専門家によりEUタクソノミーの解説がされています。しかし、EUタクソノミーの考え方は、日本では馴染みが薄く、また複雑で全体像が分かりにくいこともあり、今回は、そのエッセンスをできるだけ分かりやすくご紹介していきます。「タクソノミー」とは、日本語では「分類法・分類学」などと訳されます。では、EUタクソノミーとは何を指しているのでしょうか。その前に、まずEUにおける環境目標を知っておく必要があります。EUでは2030年までに温室効果ガス排出量を1990年比で40%削減するという目標を立てていますが、達成には年間2600億ユーロの投資が必要だとも試算されています。そのため様々な施策が行われていますが、企業のサステナビリティの活動は玉石混交で、建前だけとなってしまっている場合があります。EUタクソノミーとは、そのような状況の中で真に環境への貢献度の高い企業や事業に適切な投資を行うための、選別・分類を指しています。EUタクソノミーは、2020年3月にTEG(サステナブル金融に関するテクニカル専門家グループ)が「タクソノミー技術報告書」「タクソノミー技術報告書 付属書」としてその骨子を公開し、2020年7月に「タクソノミー規則」として法令化されました。ただし、重要な部分はまだ適用されておらず、今後、年を追うごとに順次適応されていく予定です。なお、EUでの「規則」は、EU加盟国に対して、国内法よりも優先して法的拘束力をおよぼします。そのため、タクソノミー規則は今後、EUの企業はもちろん、EUに関連する企業にとって事業戦略や情報開示の点で大きな影響があります。EUタクソノミーの適合率を出す5つのステップEUタクソノミーは、企業の事業活動をEUタクソノミーの示す基準に照らし合わせ、環境的に持続可能な経済活動かどうかを判別すること、また事業全体の中で適合した事業がどの程度の割合なのか適合率を算出し開示することを求めています。適合率を出すためには5つの大きなステップがありますので、それらを見ていきましょう。STEP1第1ステップでは、企業の経済活動が、EUタクソノミーが掲げる6つの環境目標のいずれかへの貢献に該当するかどうかを判別> します。6つの環境目標には、気候変動や水資源、循環型経済への移行などがありますが、現段階(2021年2月)では「気候変動の緩和」と「気候変動への適応」の2つの目標について整備ができており、当てはまるかどうかを判別できるようになっています。■EUタクソノミーの6つの環境目標気候変動の緩和気候変動への適応水資源等の使用と保全循環経済等への移行大気・水・土壌等の汚染防止植生・林業・希少種などのエコシステムの保護STEP2第2ステップでは、企業が展開する事業が「タクソノミー技術報告書 付属書」に記載されている技術的スクリーニング基準に適合しているかを判別 します。例えばソーラーパネルの生産や海洋発電、自動車生産などの環境に関連する様々な事業について、それぞれに何を満たせば環境的に持続可能な経済活動と認められるのかといった基準が示されています。1つ例を挙げると、自動車生産の分野であれば「2025年までにCO2排出を50gCO2/km以下にする」といった具体的な基準値が設定されており、もし自社が生産している自動車がその基準を満たせなければ、その事業はサステナブルな事業とは認められません。「タクソノミー技術報告書 付属書」では、基準値だけではなく、なぜ必要か、どのように基準値が導き出されたのか、などの背景も一緒に説明されています。STEP3第3ステップでは、第2ステップで適合と判別されても、他のところで環境に害を及ぼすような活動であれば、それは持続可能ではないとして排除されるプロセスです。Do No Significant Harmの略でDNSH基準と呼ばれています。STEP4第4ステップでは、企業として最低限行うべきサステナビリティに対する行動を行っているかを確認します。例えば、OECD(経済協力開発機構)の「多国籍企業行動指針」や国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」などを守っているかということです。STEP5第5ステップでは、第4ステップまでを通過できた、つまり、環境的に持続可能な経済活動として認められた事業が、会社全体のなかでどの程度の割合を占めるかを表す適合率を算出します。「売上高」「資本支出」「営業支出」といった項目において、その適合率を出します。企業は、これらの適合の状況を開示していくことになります。「タクソノミー技術報告書」 44ページよりEUタクソノミーによる数値情報開示の要求EUタクソノミーの大事なポイントは、各企業がEUタクソノミーという共通基準にそって適合率等の数値を開示することで、金融機関や行政がそれらを参照し、地球環境の持続可能性に真に貢献する事業に投資や融資、グリーン補助金などの拠出を行えるようになることにあります。CSRD(EUの企業サステナビリティ報告指令)の対象となっている企業は、自社の事業ポートフォリオにおけるタクソノミーの適合率を算出し、サステナビリティレポートなどに開示する必要があります。また、金融商品の販売元は、自社の金融商品における適合率を出すことになっています。企業の情報開示要件や、業種別の統治などは、先にも記載した通り現時点ではまだ法的確定に至っていませんが、今後、順次確定されていく予定です。EUタクソノミーの日本企業への影響は?EUタクソノミーはEU域内の企業や金融機関を対象としているものの、日本企業であっても、EUの企業との取引や、EUで事業を行ったりする場合には、EUタクソノミーに準じた情報開示を求められるようになることが想像されます。同様に、EU以外の地域においても、EUを追従する形でEUタクソノミーのような基準が作られる可能性もあります。今やサステナビリティの情報開示はビジネスルールに組み込まれており、EUタクソノミーについても、しっかりとその動向に注目しておく必要がありそうです。■参考資料Sustainable finance taxonomy – Regulation (EU) 2020/852TEG final report on the EU taxonomy(タクソノミー技術報告書)■関連記事ESRS(欧州サステナビリティ報告基準)