サステナビリティの領域で「ダブルマテリアリティ」という言葉が登場する機会が増えました。マテリアリティ(重要性)の考え方には複数の立場がありますが、GRIスタンダードでは「自社が社会・環境に与える影響」、IFRSの基準などでは「財務への影響」が重要課題を特定する基礎となっています。その両方の観点に基づく「ダブルマテリアリティ」の考え方がEUのサステナビリティ開示基準(ESRS)において、2023年7月末に正式採用されました。今後は「ダブルマテリアリティ」がスタンダードになっていきます。日本企業も対応し始めており、次年度以降より多くの企業がダブルマテリアリティについて開示すると考えられます。そこで今回は、WBCSD(持続可能な開発のための経済人会議)が毎年発行しているレポート「Reporting Matters 2022」でサステナビリティ情報開示の評価が高かった企業のうち、ダブルマテリアリティの考え方を採用している事例をご紹介します。■PMI(アメリカのたばこ関連企業、GRIは参照宣言)PMIは「2021Sustainability Materiality Report」(2022年2月)で開示しています。サステナビリティ重要性評価は、PMIにとってサステナビリティ戦略の基礎です。2021年は、政治的出来事、気候変動、広範な健康危機、技術開発などの最新のメガトレンドが考慮されました。https://www.pmi.com/sustainability/reporting-on-sustainability※直近の報告書である「INTEGRATED REPORT 2022」には、「レポートの内容は、2021年に実施された正式な持続可能性重要性評価によって形成されています」と記載があり、上記レポートにリンクされています。・特定ステップ1、網羅的なリストの作成重要性分析は、PMI に関連する可能性のあるすべての分野をカバーする網羅的なリストに基づいて行うことが重要です。前回2019年に定義されたリスト、世界中の関連会社によって実施されたローカル分析、消費者の洞察、公衆衛生に関する議論、ESG投資家のトピック、および 格付け要件(MSCI やDJSIなど)、メディア報道、持続可能性の基準と枠組み(GRI や SASB など)、国連の持続可能な開発目標(SDGs)、他の多国籍企業の持続可能性実践のベンチマークなどを考慮してリストを作成しました。2、ステークホルダーの視点の考慮客観的かつ代表的な意見を求めて、より広範かつ制約のない方法でステークホルダーに働きかけるのではなく、建設的で情報に基づいた批判的な声にアプローチすることに重点を置きました。事業を展開している地域全体で主要なステークホルダーグループを公正に代表するために関与すべき個人を特定し、150人近くの利害関係者 (内部利害関係者 45%、外部利害関係者 55%) が参加したオンライン調査を通じて定量的な情報を収集しました。3、社会への影響評価外部に最も大きな影響を与える可能性のあるトピックを理解するため、バリューチェーンのさまざまな段階で、社会に対する ESG の影響の重要性を分析しました。分析にはバリュー・バランシング・アライアンス (VBA) 影響評価方法論や、人権リスクのマッピング結果を活用するとともに、対象分野の専門家へのヒアリングも実施しました。4、PMIへの影響評価ダブルマテリアリティに沿って、当社の価値創造能力に影響を与える可能性のあるリスクと機会の観点から、サステナビリティに関するトピックが PMI の業績とビジネス全体に及ぼす潜在的な影響も評価しました。5、最も重要な ESG トピックを特定1~4までの結果をマトリックスにまとめました。その際、「重要トピックには含まれていないものの、今後の重要になると予測されるテーマ」として「人財育成」「生物多様性」「水」を追加しました。マテリアリティ評価の結果は、経営層レベルのサステナビリティ委員会に提出され、正式に承認された後2021年末に取締役会に提出されました。・結果の開示「2021Sustainability Materiality Report」内では、1~5の各ステップの結果が示されています。 最終的に特定されたESGトピックは、「マテリアリティマトリックス」として示されています。 特定されたトピックスは、環境・社会・ビジネスとガバナンスの3分野に分類しています。■DSM(オランダの化学系企業、GRIは準拠宣言)DSMは、マテリアリティについて「Integrated Annual Report 2022」内で開示しています。社会にとって関心があり、当社のビジネスに影響を与える重要なトピックを評価するために、重要性分析を毎年更新しています。2022年は「ダブルマテリアリティ」の概念に基づいて、「トピックに対する企業の影響とトピックが企業に与える影響」の両面を考慮しました。https://annualreport.dsm.com/ar2022//report-by-the-managing-board/stakeholders/materiality.html・特定ステップ1、EUサステナビリティ開示基準(ESRS)の草案、2021年のマテリアリティマトリックスなどをもとに、マテリアルなトピックスの候補をリスト化しました。その際第三者による調査や上級マネージャーへのインタビュー、社内文書も使用されました。2、ビジネスグループレベルでワークショップが開催され、まずビジネスグループのマテリアリティマトリックスを作成しました。これらのマトリックスを企業レベルの情報と組み合わせて、重要性マトリックスの草案を作成しました。3、経営委員会による企業リスク評価と併せて、重要性マトリックスの草案を検討・検証した後、最終的に取締役会が承認することで確定されました。・結果の開示トピックスの候補リストなど途中経過は示されていませんが、最終的な評価結果は「マテリアリティマトリックス」として示しています。特定されたトピックスは、環境・社会・ビジネスとガバナンスの3分野に分類しています。【関連記事】セミナー告知:「これでいいのか?わが社のマテリアリティ」~マテリアリティのあるべき姿とその見直し方~「ダブルマテリアリティ」と「ダイナミックマテリアリティ」とは何ですか?