気候変動やサステナビリティに関する議論が盛んになるにつれ、それまでになかった新たな概念を表す様々な用語が必要に応じて生み出されてきた。環境に関する情報をキャッチアップするためにはそれらの用語を理解する必要があり、耳慣れない言葉に出会う度に、その意味を調べる人も多いだろう。こうした言葉のバリアは、何らかの障害のある人々にとってはより深刻となる可能性がある。その一例が、聴覚障害のある人たちだ。聴覚障害のある人たちは、コミュニケーション方法の選択肢として手話を用いることも多い。しかし、近年生み出されてきた比較的新しい環境用語を表す手話は開発が追いついておらず、アルファベットを表す指文字で一文字ずつ表現するしか方法がなかったのである。そんな中、イギリス手話(以下、BSL)においてはこの点に進歩が見られた。2023年から2024年にかけて、400の新たな環境科学用語を表す手話が追加されたのだ。開発は王立協会の助成を受けて行われ、そのプロセスには、エディンバラ大学の12人の専門家チームが関わったという。チームには、聴覚障害のある科学者や教育者、手話言語学者などが参加。新しい手話は、チームメンバーと聴覚障害のある学生のフィードバックを受けた上で承認され、BSLオンライン用語集に加えられた。追加は2段階で行われ、最初に追加された200の手話は、生物多様性、生態系、汚染、物理的環境がテーマとなった。一方でその後の200の手話は、エネルギー、持続可能性、環境変化が人類に与える影響がテーマとなっているという。新たに追加された400の手話の中には、例えば「二酸化炭素」「地球温暖化」「気候変動」「サステナビリティ」といった比較的認知度の高いであろう用語のほか、「カーボンフットプリント」「カーボンオフセット」「炭素隔離」「再野生化」といったより専門的な用語なども含まれている。The Conversationの記事によれば、今回追加された手話は、英単語をそのまま翻訳するのではなく、こうした用語が表す根本的な概念を視覚的に表現することに焦点が当てられているという。たとえば、「カーボンフットプリント(直訳:炭素の足跡)」の手話は、「炭素」と「足跡」の手話を組み合わせるのではなく、炭素が大気中に放出される様子を表している。また、動きの速さが排出量を示すように設計されているという(速い動きは高い排出量を、遅い動きは低い排出量を示す)。こうしたアプローチにより、複雑な概念が即座に理解できるようになり、指文字で表現する時間も短縮できるのだ。%3Ciframe%20width%3D%22560%22%20height%3D%22315%22%20src%3D%22https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fembed%2F5M5SE4u-nHs%3Fsi%3DrgyxtugoQKHRLhuu%22%20title%3D%22YouTube%20video%20player%22%20frameborder%3D%220%22%20allow%3D%22accelerometer%3B%20autoplay%3B%20clipboard-write%3B%20encrypted-media%3B%20gyroscope%3B%20picture-in-picture%3B%20web-share%22%20referrerpolicy%3D%22strict-origin-when-cross-origin%22%20allowfullscreen%3D%22%22%3E%3C%2Fiframe%3E全ての人に関わる、気候変動やサステナビリティの議論。真に誰も取り残さない社会を作っていくためには、その議論のプロセスが包括的であることが欠かせない。自分たちの発信や活動の方法は、本当に包括的なものになっているだろうか。今回の事例をきっかけに、改めて考えたい。【参照サイト】How we developed sign language for ten of the trickiest climate change termsWhat is climate change in sign language? Experts develop new vocabulary for the deaf communityExperts ‘rewild’ British Sign Language with new environmental terms2025/1/28IDEAS FOR GOOD[原文はこちら]IDEAS FOR GOOD は社会を「もっと」よくするアイデアを集めたウェブメディアです。最先端のテクノロジーから、思わず「なるほど!」と言いたくなる秀逸なデザインや広告、政府の大胆な取り組みにいたるまで、世界中に散らばる素敵なアイデアをお届けします。