「あなたは今、何時間分の貯金がありますか?」もしかしたら数年後、こんな問いが当たり前に投げかけられる世の中がやってくるのかもしれない。人と人とのつながりが希薄化する今、「タイムバンク(時間銀行)」という取り組みに世界中から注目が集まっている。「時間銀行」とは、その名のとおり一般的な銀行にお金を保管できるのと同じように、「時間」を保管できる銀行だ。保管している時間は、同じ銀行に登録しているメンバー間で取引され、自分が他者に提供できるサービスを登録し、そのサービスをメンバーに提供した時間の分だけ貯金できる仕組みだという。実はこの仕組みは、1973年に著作家・水島照子氏が立ち上げた、女性たちが時間単位で子育てや家事を手伝う仕組み「ボランティア労働銀行」が発祥となっている。現在、アメリカ、中国、マレーシア、日本、セネガル、アルゼンチン、ブラジル、そしてヨーロッパを含む少なくとも37カ国に、それぞれ数十万人の会員を有する数千もの時間銀行が設立され、320万人以上が時間の取引をしているという。例えば、アメリカ、カリフォルニア州セバストポール市内に住む高齢のギル氏は、プログラミングや編集、ファイナンシャル・プランニングなどの専門知識を提供することで、地元の時間銀行に480時間分の時間を貯金している。そして貯金した時間は、空港までの送迎や、重い家具を運ぶなどの人手が必要な際に使うのだという。「隣のブロックに住むスティーブは、空港まで送ってくれたし、ケンは冷蔵庫の製氷機を直してくれた。エレインは電気工事をしてくれたよ」と、ギル氏はメディアReasons to be Cheerfulに向けて話している。プロの業者やタクシーに頼んでいたら相当な出費であったはずが、時間銀行のおかげでそのコストを削減することができた。さらに、利息は単なる時間取引の価値を超えているという。それは紛れもなく、ほかの方法では出会えなかった「人とのつながり」である。また時間銀行が、高齢化社会を支えるモデルとして利用されているケースもある。スイスの北東部にあるザンクト・ガレンでは50歳以上の会員だけが参加できる「ザンクト・ガレン・タイムケア財団(Stiftung Zeitvorsorge)」が2011年に設立され、320人の会員が8万時間以上を貯金している。会員は高齢者の用事を手伝ったり、食料品の買いものをしたり、病院に連れて行ったりすることで、高齢者が自立した生活をより長く送ることに貢献しているという。そしてそれは、新しい友情をつくるきっかけにもなっている。ある意味、時間銀行は、かつて小さなコミュニティで有機的に行われていた、隣人同士の助け合いを取り戻す取り組みだ。日本国内でも、隣近所に住んでいる人とみんな顔見知りで、子どもを預かってもらったり、採れすぎた野菜をお裾分けをしてもらったり……そんな光景があちこちで見られていた時代があったのではないだろうか。本格的な少子高齢化の進行や核家族化に伴い、地域のつながりが希薄化する現在。時間の貯金は、もしかするとお金を貯金すること以上に精神的な安定と幸せをもたらすのかもしれない。【参照サイト】Banking the Most Valuable Currency: Time【参照サイト】TimeBanks.Org2024/2/19IDEAS FOR GOOD[原文はこちら]IDEAS FOR GOOD は社会を「もっと」よくするアイデアを集めたウェブメディアです。最先端のテクノロジーから、思わず「なるほど!」と言いたくなる秀逸なデザインや広告、政府の大胆な取り組みにいたるまで、世界中に散らばる素敵なアイデアをお届けします。