2020年5月にジョージ・フロイド氏が警察の不当な暴力により命を落とした事件から再起した人種差別抗議運動、Black Lives Matter運動(以下、BLM運動)。デモ行進などの抗議の裏で、抗議者がインターネット上の攻撃を受けていたことをご存じだろうか。2020年当初、BLM運動において抗議の声をあげた人や組織がオンラインでトラッキングされ、サイバー攻撃のターゲットとなる被害に遭っていたことが報道された。インターネットセキュリティサービスを提供する米企業Cloudflareによると、5月25日に起こったジョージ・フロイド氏の事件後である2020年5月31日(日)は、前月の同じ日曜と比べてサイバー攻撃が26%増加し、前月比で最大の増加幅となった。その内訳を見てみると、サイバー攻撃が最も増加したウェブサイトのカテゴリーはアドボカシーグループで、なんと1,120倍だったという(※1)。このとき使用されたのは、Distributed Denial of Service(DDoS:分散型サービス拒否)という手法のサイバー攻撃。この攻撃は、特定のウェブサーバーなどに対して複数の場所から一気にアクセスすることで、そのサーバーをダウンさせるものだ(※2)。BLM運動においては、2020年4月にはサイバー攻撃がほぼ0に近かったウェブサイトに対し、最大で1秒に2万件ものアクセスリクエストが押しかけたのだ(※1)。これにより、BLMを支持する個人や組織のウェブサイトがアクセスできない状態に陥ってしまったという。こうした攻撃の被害を受けやすいのは、デジタル情報やツールを扱い慣れておらず、社会的に弱い立場に置かれている人々だ。アメリカの労働者のうち3分の1はデジタルスキルがないまたは限定的にのみ身につけており、アジア・パシフィック系(Asian American/Pacific Islander)は3分の1、黒人系(Black)は半分、ラテン系(Latino)は半分以上がそれに該当するという(※3)。特に黒人系やラテン系の労働者は不利な状況にあるようだ。こうした現状を変えるべく、アメリカ・ニューヨーク市を拠点に設立された研究組織が「Cyber Collective(サイバー・コレクティブ)」だ。家族がハッキングの被害に遭ったことをきっかけに、Tazin Khan氏が立ち上げた。あらゆるアイデンティティの人、特に疎外されたコミュニティの人々がテクノロジーを活用できるよう、デジタルに関する知識やツールをわかりやすく伝えている。2019年に設立された同組織は、2020年のBLM運動が再起する前からそのリスクと対策の重要性に目をつけ、安心して利用できるデジタル社会の構築に貢献してきたのだ。ウェブサイトには「ハッキングされたら何をすべきか」「データブローカーからどのようにデータを消すか」「サーチエンジンはどのように人種差別を増強しているか」といったブログ記事や動画が掲載され、「公共の場でWi-Fiを使用するときに気をつけること」などのSNS投稿が注目を集めている。他にも、オンライン上での安全を確保するためのリソースセットを掲載。デジタル社会の危険性やデジタルツールの活用法を学べる本や映画、ツール、団体などが紹介されている。デジタル社会で気をつけるべきことは、サイバー攻撃だけではない。SNSが普及したいま、ユーザーの好みに合わせたコンテンツだけが表示される状態であるフィルターバブルや、その一種として、自分と同じような意見を見聞きし続けることで偏った方向に意見が増強されるエコーチェンバー現象などの特性を理解することも重要だ。そうした危険性や活用方法を学ぶ機会が少ない人々にCyber Collectiveのような橋渡し役が存在することで、本当の意味でインターネットを“みんなのもの”にすることができ、デジタル社会の恩恵を平等に分け合うことができるのではないだろうか。※1 Cyberattacks since the murder of George Floyd|Cloudflare※2 DDoS攻撃とは?|トレンドマイクロ※3 Applying a racial equity lens to digital literacy|National Skills Coalition【関連サイト】Cyber Collective2024/2/7IDEAS FOR GOOD[原文はこちら]IDEAS FOR GOOD は社会を「もっと」よくするアイデアを集めたウェブメディアです。最先端のテクノロジーから、思わず「なるほど!」と言いたくなる秀逸なデザインや広告、政府の大胆な取り組みにいたるまで、世界中に散らばる素敵なアイデアをお届けします。