(※S-Rayは、2022年に「ESGブック」にブランド名を変更しました)金融情報サービス提供機関の中でも人口知能(AI)を用いて、多面的に企業のESG評価を行うという、これまでに例のない新しいシステムによって運用されている「S-Ray」。前回は、このサービスの提供組織である「アラベスク」の日本代表である雨宮氏に、提供元である「アラベスク」という組織について、また「S-Ray」というサービスの特徴や機能についてお伺いしました。(前編の記事はこちらから)さて、今回はその続きであり、一番の関心ごとでもある「では企業としてはどのように対応していくのか」に迫っていきます。S-Rayと企業の情報開示企業側の対応を考える上では、その前にもう一歩、S-Rayについて知る必要があります。前回、S-Rayはビッグデータと人口知能(AI)を活用するとお伝えしました。そして今回は、具体的にどのような情報を抽出しているのか、について詳しくお伝えしていきたいと思います。S-Rayで抽出する情報ソース(情報元)は大きく4つに分類されます。まず、第1分類に該当する情報ソースは、国際的な評価機関による対象企業への評価になります。具体的には国際的な金融関連の指数を算出している機関やコンサルティング会社などによるESG評価です。各機関は独自のESG評価方法や方針を持っておりますので、同じ企業に対しても異なる評価が出ることも多くあります。しかし、世界の主要な企業をほぼ網羅していることから、国際的な評価機関による各企業のESG評価は、S-Rayの評価においても主軸となります。第2分類は、ESGの中の特定の課題に対して特化している機関による評価です。地球温暖化リスクに対する企業の取り組みの評価や、サプライチェーンにおける企業の取り組みに対する評価、汚職問題等々、企業活動が及ぼす社会環境への影響を評価する評価機関があります。これらの評価を重視しております。第3分類は、それぞれの国で活動する評価機関です。S-Rayは、英語はもちろんのこと、日本語を含む世界の主要15言語の情報を分析しています。しかし、国連が公式言語として認めている英語、仏語、中国語、スペイン語、ロシア語、そしてアラビア語以外の言語については、それぞれの国でESG評価を行う評価機関から情報を得ています。もちろん、上記の公式言語が使用されている国々においても、金融市場の発展度合や企業数に応じて国内評価会社から情報を得ています。最後の第4分類は、毎日のニュースです。このニュースというのは、例えば新聞。企業の情報は一般紙から経済紙、業界紙、タブロイド紙(スポーツや芸能中心)等幅広く扱われます。こういった中で、S-Rayでは、「ウォールストリートジャーナル」や「フィナンシャルタイムズ」で掲載された企業に関する記事をより高くスコアに反映しています。一方、タブロイド紙に掲載されている企業に関する記事のスコアは低く反映する、といった記事の影響度や信憑性による独自の勾配を持って評価に反映を行っています。雑誌やオンラインメディアでも同様に、企業に関する情報のクオリティを各媒体でスコアリングに反映させています。(ただし2018年1月現在では、ブログやツイッター、フェイスブックなどのSNS情報は対象としていません。)このようにS-Rayでは4つの情報ソースから企業のESG情報を獲得し、スコアリングしていきます。企業の発行するCSRレポートの情報はビッグデータには入ってきますが、スコアリングには反映されません。企業による情報開示が第3者である評価機関やメディアから評価されることが重要になります。S-Rayのスコアを引き上げようと考えておられる企業には、ぜひ、これまでの情報発信力に加えて、社外へのコミュニケーション力を一層強化して頂くことが大切となります。今後のS-RayS-Rayが正式に一般公開されたのは2017年4月。最新のスコアを提供する有償サービスを開始したのは同年9月からになります。有償サービスを開始してまだ4カ月程度ですが、すでに証券取引所、大手機関投資家、運用会社、国際的格付機関、保険会社、金融機関、事業会社等が利用を始めています。日本においても数社が利用を開始し、複数の機関がトライアルを行い検討している最中です。本寄稿のようなメディアでもS-Rayを説明させて頂く機会も増えていますので、今後も順調に利用者は増えていくものと考えています。S-Rayの利用者はESG投資に積極的な機関投資家や運用会社というケースが多いですが、私としては、事業会社にS-Rayをぜひ活用して頂きたいと考えています。また、各社が発行するCSRレポートの多くに第3者意見が掲載されていますが、第3者となる評者の方にも、S-Rayによる当該企業の診断スコアをご覧いただきたいと思います。そうすることで、当該企業がESGにおいて秀でている点や不十分な点、また、国内外の同業との比較や、日本国内における位置付けなどをチェックすることができます。評者の方が多岐にわたる企業のCSR状況を調査分析し、評価することは大変な作業です。S-Rayを活用することで、効率的に、説得力のある評価を述べることができるのではないかと思います。S-Rayは現在世界70か国、約7,000社の企業をスコアしています。今後もスコア対象企業の数を増やしていく方針です。さらに国連持続可能な開発目標(SDGs)への企業の取組みもスコアリングに反映していく計画そのため、前述の4つの情報ソースのうち、今後は第2分類の社会・環境の課題に特化した評価会社からの情報および第3分類の国内市場に特化した評価会社の情報がこれまで以上に重要になってくると考えております。また同時に、AIの機械学習効果によって、第4分類からの情報の情報量、クオリティともに向上していくことになるでしょう。—————————————————————————————————————————これまでも、財務面である金融情報ではAIを使った評価というものもありました。しかし、今回ご紹介した「S-Ray」はESG情報という非財務面で、AIを用いて大量の情報を即時的に処理し、評価情報を提供してくれる、非常に画期的なサービスになっています。このサービスが普及すれば、企業は「評価機関Aでは高い評価なのに、評価機関Bでは低い評価になってしまった…」といったお悩みを解消できるでしょう。その一方で、より幅広いステークホルダーからの評価が、ダイレクトに投資というものにも反映されていく可能性も含んでいます。企業側は、一過的な情報開示に留まらず、企業姿勢そのものが問われることになるでしょう。まずは一度、自社の状況などご確認してみてはいかがでしょうか。雨宮 寛 (あめみや ひろし)氏/略歴ESG Book 日本代表。コーポレートシチズンシップ代表取締役。DWMインカム・ファンズ日本代表。 CFA協会認定証券アナリスト。外資系金融機関に勤務後、2006年にCSR/SRIの普及・啓蒙を目的としたコーポレートシチズンシップを創業。これまで共訳書・監修としてロバート・ライシュ著「暴走する資本主義」や「最後の資本主義」、フィリップ・コトラー共著「グッドワークス」(いずれも東洋経済新報社発行)等多数【参考リンク】SFDR(EU)Final Report on draft Regulatory Technical Standards (EU)