「都市の生物多様性」を高めるために、個々の建築プロジェクトが打てる対策は意外と多い。その対策を都市レベルでどのように推進できるか。国際自然保護連合(IUCN)はこのほど、報告書「建築物における生物多様性の促進」を公表した。建築レベルでの生物多様性促進に関連する取り組みとして、世界的には「昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)」、EUの「自然再生法」などが挙げられる。一方で同報告書は、生物多様性保全に資する万能な方法は存在しないとして、各都市で規制・補助金・技術支援など多面的な方策を組み合わせるべきだとする。各都市の政策として、同報告書では以下の例が紹介されている。1.建築を緑化する屋上緑化が進む国の一つがドイツだ。ミュンヘンでは1997年以降、100平方メートルを超える屋根に緑化が義務付けられている。ハンブルクでは2014年以降、緑化設置コストの最大50%に補助金が出る。「緑化係数」を定める都市もある。計算方法に違いはあるが、基本的な考え方は、土地開発などにより失われる緑地を数値化し、開発後に同等の緑地設置を求めるというものだ。たとえば、豪メルボルンの「グリーン・ファクター・ツール」は都市緑地の機能を7つ(都市冷却、生物多様性、食料供給など)に分けて数値化する。2.地元の植物を植える在来種の植栽は、その土地固有の生態系を育むことに貢献する。パリでは緑化において、植生の大半を在来種とするよう求められる。スイスのバーゼルやチューリヒでは、1)在来種を植える、2)地元の植生を模倣する、3)地元の土を使う、の順に優先するよう法で規定されており、緑化が生態系にもたらす価値が高いとみなされると補助金が増える。3.野生生物に配慮して計画する建築のガラスへの衝突は、鳥類減少の主要因だと考えられている。ガラスに映る空や木々を本物と誤解して飛び込む鳥が後を絶たないのだ。サンフランシスコでは新築・改修時に、鳥類が判別できる模様をガラスに入れるなどの対策が求められる。街中の夜間照明も野生生物の生活リズムを乱し、移動や生殖などに悪影響を及ぼす。EUでは街灯や信号機の公共調達基準として、路上の光量や向きの調整、人感センサーの設置による点灯時間制限などが盛り込まれている。4.包括的な性能規制で都市の水準を底上げするカナダのトロントは「トロント・グリーン・スタンダード」で建築プロジェクトの環境性能基準を包括的に定めている。1)空気質、2)エネルギー・排出・レジリエンス、3)水質と効率、4)生態系と生物多様性、5)廃棄物と循環経済の5つのカテゴリーで構成され、関連する環境規制に適合する。評価は4段階で、より高い水準を目指す動機づけとなっている。最低基準は段階的に引き上げられ、トロントの環境水準の底上げに寄与している。【参照サイト】Catalysing biodiversity on buildings2025/1/30Circular Economy Hub[原文はこちら]Circular Economy Hub は、サーキュラーエコノミーを推進したい企業や団体、自治体を支援するプラットフォームです。サーキュラーエコノミーに関する最新情報や事例を国内外問わず発信しています。